【人間国宝紹介】前大峰・沈金を芸術の粋に高めた職人

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漆芸の世界に沈金という加飾技法がある。

沈金は漆の塗膜の上を沈金刀という特殊な鑿で模様を彫りこみ、彫りこんだところに漆をひいて余分な漆をふき取る。

細かいペースト状の金を彫った溝の中に定着させる。(漆は接着剤のような効果を持っている。)

そしてきらびやかな彫りの世界が現れる。

その技術をもって人間国宝に認定されたのが前大峰(まえたいほう)だ。

 

 

人間国宝は、重要無形文化財保持者として各個認定された人物を指す通称である。日本の文化財保護法第2条第1項第2号は「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(以下「無形文化財」という。)」と規定している。すなわち、無形文化財とは芸能、工芸技術等の無形の「わざ」そのものを指すが、その「わざ」はこれを高度に体得している個人または団体が体現する。そして、日本国政府はこのような「わざ」のうち重要なものを重要無形文化財に指定するとともに、その「わざ」を体現する個人または団体を保持者または保持団体として認定する(同法第71条第1項および第2項)。Wikipedia人間国宝 参照

 

生い立ち


前大峰(1890年~1977年)は石川県輪島市で生まれ育った。輪島は漆器の一大産地であった。大峰はその輪島で小さいころから沈金職人のもとで修業した。

大峰の師匠は沈金師は絵が描けなければいと指導し。

大峰は師匠の言葉通りほかの弟子達と良くスケッチなどをして写生力を磨いた。

それから5年の修業期間を終えた大峰は日夜の職人仕事をしながら、展覧会などに出品する作品作りもするようになっていた。

当時は職人をするだけで十分な収入を得ることができたので作品作りをしているようなものは少なかった。

輪島は今では著名な漆芸作家が大勢いるが、その先駆けとなったのが前大峰である。

 

 

その努力が実ったのが昭和4年、帝展に初出品、初入選を果たし、翌年での帝展では特選を受賞する。

当時の帝展を地方から受賞するということは、特別に快挙なことであった。

それは沈金作家前大峰の名を全国に届かせるとともに、沈金という技法が芸術であると認められた瞬間でもあった。

 

それ以降も様々な展覧会で入選、受賞を重ね、昭和30年に重要無形文化財「沈金」いわゆる人間国宝に認定された。

沈金という漆芸の加飾技法を芸術と認めさせた大峰は、すばらしい作家であった。

しかしおごることなく職人としての矜持を持ち続けた。

輪島の地に作家というみちしるべを作った、その功績は山のように大きく素晴らしいものである。

 

 

前大峰の作品を見る


元々沈金には線彫りと片桐彫りこすりという彫り方があった。

前大峰はそこに点彫りという技法を編み出した。

点彫りは新聞が小さな点で印刷されていることから気づきを得て、考案されたもので、小さな点をいくつも彫ることで、従来までは平面的であった沈金に奥行きと陰影の表現を可能にさせ飛躍的に芸術性を高めた。

大峰は点彫りのみならず、線、片桐、こすり、の技法を高いレベルでこなし、バランスよく適材適所に使用することで、様々な物を自由自在に表現した。

弟子の時代から磨いた写生力、それを最大限生かす構成力、沈金の技術、すべてにおいて優れている、オールラウンダーであった。

その技巧から生み出される、作品は素晴らしいという言葉に尽きる。

 

蟹と雑草文沈金丸盆

 

 

筆者一押しの作品

大峰の遺作、沈金の技術はさることながら、鶴の特徴を的確にとらえ、そこから見事に図案化している。

工芸はただリアルに描けばいいというわけではない、加飾は、器物の特性を生かした装飾性が大切なのである。

その点においてこの作品は正に完成形の一つだと私は思う、図が主張しすぎず、溶けるように器物と一体化している。

それでいて美しい、作者歳晩年まで衰えないその制作意欲には感服である。

長年沈金一筋で制作し続けた男の境地を垣間見ることができる。

 

沈金双鶴文硯箱

 

 

終わりに


前大峰は作家として、十分評価されていた、それでもおごることなく、職人としての仕事もしっかりとこなし、後進の育成にも尽力した。

 

大峰という号は奥能登で一番高い山である高州山の峰を眺めながら生涯創作していくという決意と、山のようなどっしりとした人間であることを目指し、自ら名付けたものである。

 

その号の通り、死の間際まで創作を続けた。

どれほど偉くなろうと決して自分の意見を押し付けたりせず、相手の意見を尊重したという、まさに山のように大きな人であった。

常におごらず、ただ一人の作家として職人として矜持を持ってつくられた作品は、揺らぐことのない技術が見る人に驚きを与え、見事な意匠力が合わさり、感動を引き起こす。

工芸の良さ漆芸のすばらしさそして沈金の美を私たちに十分以上に伝えてくれる。

 

 

 

前大峰の作品を見たい方は、日本で唯一の漆芸専門の美術館である石川県立輪島漆芸美術館で見ることができます。

リンクhttps://www.city.wajima.ishikawa.jp/art/home.html

企画展ごとに展示が変わりますので、一度調べてみることをお勧めします。

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